2011年7月18日月曜日

夏の結婚式に思う事


 猛暑の16日は親戚の結婚式に招かれました。暑いのは覚悟の上です。最近は七月に結婚式に呼ばれることも多くて,私は三つ紋の色留で波柄に織られた紋絽に白上がりで渦潮を描き、白糸で手刺繍があしらわれた着物を着て参りました。家から着て出掛けますし、車で会場に向かうので、着てしまえば思ったよりは暑い思いはいたしません。車も会場も冷房があるから一日中楽なので、夏だからと言って町中を歩かなければどうということはないのです。
 何人かの親戚も、夏の素材の訪問着を着ての列席でしたが、圧倒的に女性たちは洋装姿でした。時期が時期なので致し方ありませんが、若い方の夏の着物姿が見られないのはいつも寂しく思います。新婦、新郎の母は黒留袖でしたが、袷です。他の黒留の方も袷でした。もう大分前から、夏の結婚式には新婦にならい、黒留は袷を着ることが決まりのようになってしまったのは誠に残念でなりません。

 いったい全体、夏の結婚式は冬と同じで良いと決めたのは誰だったのでしょうか。いつの頃からその考えが定着してきたのか、考えてみると少なからず腹立たしい気もするのは、着物に携わる私だけが感じるのでしょうか。誰が決めたのかではなく、おそらく結婚式場の都合、ホテル、会館などの貸し衣装の関係で、いつの間にかそんなことになっていったのでしょう。
 それから、着物の知識や見識のない方が多くなり、式場側の説明で夏の着物は薄いから写真写りが貧弱になりますからお嫁さんに合わせたほうが良い、とか言われて納得される方が多いからでしょう。ホテルや会館側からのその説明の台詞は良く皆様から聞くので、どこでもそのように言われるということなのだと思われます。
 式場側がそう言えばそうなのだとお客様も納得されるのは、最近のように着物を知る方が減った今、反論して夏の着物で無くて良いのかと疑問を抱く方は先ず皆無でしょう。ましてや着物を借りての列席であれば貸す側のいいなりになります。そして貸す側も夏向きの物など、はじめから用意してないのが実情であればそう言わざるを得ません。
 いくら時代とはいえ、私には納得出来ないことが多いのが夏の結婚式の衣装です。百歩譲って花嫁の衣装は冬物だとしても、親族お客様までもが合わせる事は無いと思います。おかしいのは自前の着物で季節に合わせて出席なさる方までもが右へ習えとなることです。これは貸し衣装を前提として会場側が考えているから、ということにも原因があります。

 かつては仲人が立つ結婚式が主流を占めていた頃、媒酌人が黒留を着る時代ですが、度々、仲人を務める方々の中には季節にあわせた素材の黒留を着用しました。私も、単衣や絽の黒留の注文を受けて創らせて頂いたのですが、最近のように仲人を立てない結婚式がほとんどの時代、そのように見識を持つ方もいなくなり、簡略に簡略にと会場やホテルの都合やよく分からない出席者によって執り行われているように思えてなりません。豪華でなく派手でなくても良いから、着物の約束毎は守って行ってこそ日本文化の継承と思いますが、大げさでしょうか。何でも面倒なことは省いて行くのが時代の流れなら、なんと世の中はルーズになった事でしょう。
 振袖にも同じ事が言えます。夏の振袖も頼む人も貸す側にも無いので、私はあえて夏の振袖を創ります。

 いつか夏の結婚式に新婦も列席者も夏の装いで行われたらどんなに素敵でしょう。夏の結婚式に冬物夏物がちぐはぐに混ざり合う妙なこと無く集えればと思います。日本の夏は毎年気温が高くなっていきますが、昔と違いどこにもクーラーがあり、ずっと着やすいはずです。昔通りに夏には夏の素材で結婚式に装えたら良いのに、と思うのは今となっては夢のまた夢になってしまったのか、と少し悲しい思いになります。どうか式場の言いなりでは無く、自分の確かな考えを持って着物が好きな方はキモノライフを全うして欲しいと願うばかりです。

 気分の良い夏の朝を迎えました。なでしこジャパンおめでとう。日本全体に勇気を与えてくれました。ありがとう。