2011年6月26日日曜日

夏の白い花たち


 猛烈に暑くなったかと思えば急に涼しくなったりと、気温もめまぐるしく変わります.日本列島は日ごとに天気が不安定な状態で梅雨なのか、台風なのかと入り乱れる天気予報に振り回されているようです。
しかし緑は濃く山々はこれ以上ないと思われる緑の重なりで夏らしい様子になっています。雨を一杯に含んだ木々は生い茂る草や絡まる蔦を従えてどこまでも濃い緑色が山や谷をより一層深く見せています。
 
 緑濃い葉の茂る中で白い花が目立ちます。蓼科方面にドライブしましたが長野に入ると特に山法師の木々が多くそれほど高くない木に枝を広げた葉の間に一杯に白い花が咲いていておもわず感嘆の声を上げてしまいます。今頃から夏の間は特に7月の山の景色として夏山に相応しい木だといつも思います。葉の形も可愛くて好きです。白い花は爽やかで、たとえて言うならハッカを口中に含んだときのような感覚を覚えますが花の白は葉の色を映すかのように青みがかった白です。
 何年か前に南アルプスの山の中で山法師の木がかなり沢山生えている場所に行ったことがありますがそこでは山一杯に花が盛りでしかもその白い花は見たこともないくらい大きくて圧倒されたことがあります。
街路樹として植えられた木とは違いたくましい山法師の林に迷い込んだことは忘れられません。今でも夢に出てくるような気がしてあれは夢だったのかとも思ったりするほどの不思議な景色でした。

 白い花は大好きですが先日庭の片隅に一輪のクチナシが咲いているのを見つけました。今まで椎の木の影にひっそりとあったクチナシの木でしたが日当たりが悪かったのか、何年も花は咲くこともなくて忘れられた存在でしたがたったの一輪が咲いたのに今年は気が付きました。
たとえ一輪でも香りがするのです。クチナシはなんて良い香りなのでしょう。天然のしかも期間限定の香水のようです。
クチナシの葉は固くつややかな深緑です。花はどちらかというと乳白色です。

クチナシと言えば歌謡曲で「クチナシの花」というのがありますが私の好きなのは同じ「クチナシ」」という歌でも高田三郎作曲。高野喜久雄作詞の歌の方が好きです。「荒れていた庭片隅に亡き父が植えたクチナシ年ごとに香り高く花は増え今年は19の実がついた、、」と始まるこの歌は聴く度になんだか身が引き締まり切ない思いに駆られます。
多分父親っ子だった私が19の歳に父に死なれた想いと重なるからでしょう。厚みのある独特な白い花と香しいクチナシはやはりこの時期の花です。来年はいくつ咲くでしょう。

 先日、私のお客様でMさんが京都の両足院からお庭の見事な半夏生の写真を送ってきて下さいました。半夏生は花ではありませんがその名の示すように美しい葉で白く刷毛で塗られたように緑色と白が混在して飽きることのない眺めです。こちらも夏の涼しげな景色となります。Mさんお写真をありがとうございました。私もいつか訪れたいと思っております。

 野山に見られる緑色と白の作るコントラストは蒸し暑い日本の夏にこそ映える色合いで私たちに爽やかさをプレゼントしてくれているかのようです。夏に咲く白い花たちはドクダミ、百合、ウノハナ、ウツギ、夏椿など他にも多くあります。それぞれの花びらの持つ質感は違いますし白にも色々ありますので良く眺めて楽しむことにします。

2011年6月19日日曜日

着物は生きている


 恒例の6月の「今昔の会」も終わり、またいくつかの古い着物をお預かりすることになりました。
 もうかなり前から「今昔の会」と名をつけて、6月にこの会を開催して以来、何枚何十枚の着物や帯を再生してきたことか、数えきれません。考えて見れば様々な要因があってこういうことを自分で手がけるようになったのですが、ひとえに着物たちがかわいそうだからという理由です。
 箪笥の肥やしなどと呼ばれるようになった頃、若い時に着た着物や帯の寸法が合わなくなったり派手になったりと、様々な理由で箪笥の底に眠ったままになっている着物たち。また、知り合いから頂いた着物や形見の着物などなど、誰もが多くの着物を抱えたままどうしようかなと思っているのも事実です。
 昔のように紺屋さんと呼ばれるような呉服屋さんが町に多く点在していた時代は、それぞれにそういう店に持って行って、何かと相談しながら着物の手入れや染め変えなどをたのんでいたのが普通でした。しかし現在では、ほとんどそのような店も町の中に見られなくなり、呉服屋さんも新しい物を店頭に並べる店が駅前やショッピングビルの中に入り、着物に詳しい年配の人も減りただ新しい品ばかりを中心に勧める傾向が多く、なかなか面倒な相談事には快く乗ってくれなくなってしまいました。

 時代がそうさせたのだと思っていますが、それでは昔の着物が忘れられたままになる一方です。着物の加工法に対する知識が乏しくてはアドバイスは出来ませんが、及ばずながらもこの仕事で生きてきた私が役に立ち、古い着物をまた世に送り出す手伝いが出来るのではと始めた会です。私の工房ではこの作業をすることも勉強にもなり、甦らせる楽しみも伴っています。正直言って新作を創ることの方が自由で制約が無いので楽なのですが、この仕事に携わるものの使命とも思い、出来る限り頑張ろうと思っています。

 新作を創る傍らですが、今では普段の時でも相談の着物を持ち込まれる事も多くなっていますので合間合間に預かる事もあります。
絹の着物はずっとずっと生きているような気がしてならないのです。これはどんなに古くてもその昔蚕が作り出した絹糸で出来ているからではないかと考えます。
 化学繊維では触っていても無機質でそう感じる事は全くありませんから不思議です。この不思議な感覚は多分私にしか分からないでしょう。時にはその着物の持つストーリーすら感じる事もあります。幾人の人たちがこの1枚の着物に関わってきたのかと考えるとどれもおろそかには出来ないのです。蚕から始まり紡いだ人、織ったり染めた人、加工した職人さん、縁あって求めた方、喜んでかつて袖を通した人等々、なんだか、これは私の勝手な想像ですが着物自身が語るストーリーがぼんやりと見えてくる気さえします。 ある意味今昔の会は私のライフワークのひとつかもかもしれません。新作を創り出す原動力にもなっているのでしょう。
今回の会期は夏の新作もまた皆様に見て頂くことが出来て無事に終えました。夏の着物も少なくなった今だからこそ、こちらも頑張らねばと思っています。

 会の終盤ににいらして頂いたkさんは手ぬぐいで創られた帯をお締めになられていて思わずご紹介したくなりました。蒸し暑い中きりりとした着こなしでとても素敵でした。周りの空気までも引き締まる感じだったことをが印象に残りました。

2011年6月13日月曜日

紫陽花に雨の日々


 梅雨真っ直中ですが、ここのところ雨は夜に激しく降り、日中は比較的止んでいることが多いので助かっています。今は紫陽花が美しい季節で、家々の庭や街角に雨に濡れて咲いていますが、どの紫陽花もひとつとして同じ色合いはありません。ブルー一色だったり、薄いピンクから濃いピンクにいたるまで様々で、植えられている土壌や場所により色合いも変わるそうなので、どの紫陽花を見ても綺麗だと感じます。私は萼紫陽花が好きです。中には真っ白なままの紫陽花もみられます。この季節は雨に濡れた紫陽花を楽しんで見ることにしています。

 紫陽花の葉も美しい緑で、その形はお菓子を乗せるのに丁度良いのです。私はよく、水羊羹を載せてお茶と一緒にお客様にお出しして、夏らしい等とひとり悦に入っていたのですが、昨年見た新聞に紫陽花の葉には毒があると読んでから驚いてしまい、それからは銘々皿に紫陽花の葉を乗せるのをやめることにしました。紫陽花の葉に乗せた水羊羹は絵になっていて、とても気に入っていました。我ながら良いアイデアと思っていたので残念です。

 今月は今昔月間です。色々な相談事に対応しています。併せて、あらたでは夏の着物や帯を展示しているので、お客様がお見えになります。
 相変わらず原発の問題は解決が難しく、色々なことに影を落とし人々の心を暗くさせますが、地震後の復興は、少しずつでも時に希望あるニュースが流れてきます。地震の後はしばらく着物を着て出掛ける気分にはとてもならなかった、と工房に見える方々はおっしゃっていましたが、最近になってやっと着物姿で出掛ける気持ちになったと言うことも同時に話されていました。この会期中にも何人かの方が着物でいらして下さって、私もほっとした気持ちになりました。
 相変わらず小さな余震も感じますが、何とか前向きに暮らして行ければと思います。何にも起きない平凡な日々こそがありがたいことだと、そして大事な日々なのだと気づかせてくれるこの頃です。落ち込んでいた気分から、今は良い意味で開きなおって、今日一日が大事、一生懸命過ごさなければと思います。明日は明日のことと割り切って、くよくよむやみに予想できないことに思い悩まないことにしよう、と心に決めています。

 庭の片隅の夏萩が今は盛りで、雨に濡れながらローズ色の花をこぼれるように咲かせています。この花が咲くと東京のお盆ももうすぐだと懐かしい人々を思い起こさせます。

2011年6月6日月曜日

梅雨の晴れ間に一息


 梅雨に入って4日に木曽の漆器祭りに早朝より出掛けました。毎年欠かさず行くようになって何年が過ぎたことでしょう。いつも雨に降られることもなく、梅雨の間を縫うようにお天気に恵まれます。塩尻のインターを下りて一路木曽方面に向かいます。両側には木曽の山々が迫り、その下を木曽川が早い流れを見せています。川からの風は涼しくて、澄んだ川の流れは爽やかに周りの緑濃い山々の色を映していました。私たちは漆街道と呼ばれる道を平沢に向かい走ります。平沢の隣は有名な奈良井宿で、ここにもたびたび訪れますが、旧中山道の宿場町として昔は千軒もの家々が軒を連ねていたそうです。そんな山間の村村で木曽の漆器が生まれたのでしょう。豊富な木材に恵まれた中で漆工芸がさかんになり、地場産業になったことはうなずけます。
 木の持つぬくもりに漆をかけるという事は、いつの時代に定着したのでしょうか。もっともっと私も勉強しなくてはなりません。日本全土にある漆工芸の特色を見ながらの旅は、さぞ楽しいことでしょう。もう大分食器は手に入れて、使い切れないほどあるので、新しい品を求めるのはちょっと控えめにしなくてはなりません。その代わり、大きな作品である机や箪笥に最近は心惹かれます。いずれ家を改築したときには、古い物を捨てて新しい道具を欲しいと思いますが、今回は見て歩くだけの木曽行きでした。しかし充実した旅でした。
 清流と緑の山の重なる山間にあちこち見えるガマズミの木は、白い花を付けて山のなかで両手を広げるようにした白い姿が目立っています。そして、高い木に絡まった山藤がその間にかいま見えて、これが6月の山の景色なのだと思わせます。

 山のアトリエの周りは蒲公英がすっかり綿毛を付けていたり、十二単が紫色の花をつけて群生していたり、急にチゴユリが増えていたりしていました。そのなかで山のツツジが咲き始めて、レンゲツツジも薄オレンジの蕾を持ちまもなく咲きそうです。雉もまだ啼いています。しかし当分は仕事で忙しく、山に行けそうもありません。
 今日からは「今昔の会」と「夏のあらた会」の始まりです。震災の影響は、どれだけ人々の心に影響を与えたかはかり知れませんが、古い物を大事にするという今昔の会の趣旨が、何人かにでも伝わればよいと願っています。そして、夏を楽しむ着物の素材や柄に心を留めて下さる方が何人かでもいれば、日本の衣装への認識が保てるのにと願ってやみません。
 より良い六月へのスタートが切れますようにと、山のアトリエにあるイタヤ楓の若葉を手折り持ち帰りました。玄関に飾ることにして、爽やかな青い風を呼び込みたいと梅雨の晴れ間に思っています。

2011年6月1日水曜日

佐藤節子と行く蕗谷虹児展(横浜そごう美術館)のお知らせ。


皆様、初めまして。そめとらと申します。
あらた工房唯一の男性スタッフとして、日々、イベント企画やHP管理を担当しております。

 工房では皆様との交流を目的とした楽しい企画を不定期に開催しております。ブログにて催しのお知らせを、時々告知させて頂きますのでどうぞよろしくお願いします。

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初めての方のご参加も歓迎いたします。

催し 佐藤節子と行く蕗谷虹児展(横浜そごう美術館)+お食事会


日時 2011年 7月10日 11時頃より


場所 「そごう美術館 蕗谷虹児展」
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/11/0611_fukiya/index.html



費用 6000円(食事代+入館料)くらいを予定しております。


内容 佐藤節子からのお誘い

いよいよ2011年の夏がやって参ります。今年の夏はどんな夏に なることでしょうか。皆様にはお元気でお過ごしと思います。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが「蕗谷虹児」は戦前戦後に かけて一世を風靡した日本を代表する叙情画家です。数々の作品を残し 大正から昭和にかけての着物姿やモダンな洋服姿の優美な少女を表現し当時の女性たちに絶大な人気でした。


 私も蕗谷虹児の描く絵は大好きで、若い頃からのファンでもあります。
 あらた工房のホームページの中でも挿絵として度々登場しておりますので、すでにご覧になられた方もあると思います。「蕗谷虹児記念館」にご協力を得ましてホームページ掲載の夢が叶いました。

「着物レクチャー」
「ムカシアルバム」
「瑠璃の会」

などの各コンテンツの冒頭にて絵を紹介させて頂いておりますので、よろしければご覧下さい。


そして、期せずしてこの夏に横浜そごう美術館で多くの作品が見られる展覧会が催されることになりました。
近年、大正、昭和初期のアンティーク着物もブームとなりその人気も不動のものとなりました。とても良い機会なので是非、皆様にもこの展覧会に足を運んでもらえればと今回の企画を立ててみました。

 来る7月10日に横浜そごう美術館における「蕗谷虹児展」を鑑賞してから、横浜そごう内の中華レストラン「桃源」にて昼食をしつつ懇親会を予定しております。ご都合付く方はぜひご参加下さいませ。

暑い頃ではありますが、夏の着物をお召しになるチャンスと捉えて、お持ちの方は着物にてのご参加も大歓迎です。

ご参加希望の方は食事の予約がありますので
7月4日までに、お電話か佐藤節子宛のメールにて直接お申し込み下さい。

お電話はこちら
03-3386-2792

お申し込みメールはこちら
http://www.arata.jp/setsukosato/mail/index.html

当日の費用は入館料、会食代を含め6000円くらいを考えております。
会費は当日でかまいません。
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皆様のご参加をお待ちしております。