2013年2月26日火曜日

吊し雛


 帯の会が終わり春の会が始まるまで工房内の展示スペースに吊し雛を飾ることにしました。まだ寒い日が続いていますが春が待たれます。

まだまだ雪国では積雪がやまずに、悲鳴を上げている声が報道されていますが私には5メートル以上の積雪ってどんなものなのか想像しても分かりません。
 日々の買い物はどうするのか一寸郵便局に行こうにも行けない現実はどんなに大変かと思うと雪に閉ざされた生活をどうやって切り抜けるのか考えるだに大変と思うばかりです。一日も早く春が訪れて欲しいと思います。
  気が付けばもう2月も終わりかけていて桃の節句までそう間がありません。 前から飾りたかった吊し雛を飾ってみようと工房の展示スペースに下げてみました。 これらは私の妹が手慰みのようにこつこつと作り続けていた物です。
 誰に見せるでもなく元々手先が器用で工作が小さいときから好きだったので家の中で自分の楽しみに作っていたのですが女の子も周りにいなくて、孫まで男の子ですからなかなか飾る機会もなく、たまに妹が作っている過程を私が見に行く程度でしたから、たまる一方でこれは誰かにも見てもらったらどうかと私の工房の展示室が丁度良いスペースなので思い切って全部飾ってみました。

 誰かに習ったわけではなく全くの独創的な、決して丁寧な出来ではないのですが、どんな端布をどのように使ってあるかを見るとなんだか可笑しくもあり、素人とはいえ充分にクリエイトされたユニークな吊し雛は私が言うのも変ですが結構見応えがあります。なかなか逞しい感じの吊し雛です。

 工房で染めた生地の端布や、古い生地が使われていて布はどんなに小さくなっても役に立つこともあり、このような形で生まれ変わればどんな残り布も大事にしたくなりますが生地を縫う、針を持つことは女性の本能といったら大げさでしょうか。
 10年近く暇さえあれば作り続けて来た妹の心情はよく分かるので沢山の雛を見上げれば私も嬉しく思います。
 2月も終わりですから梅の着物と帯もこれで着るのが今年は最後なので吊し雛の前で写真を撮りました。2月生まれの私に取っては良い記念となりました。月末にはまた歳を重ねます。

2013年2月19日火曜日

椿のトンネル


 2月も残り10日を切ったのですがまだまだ春の気配が薄く春は足踏みしているようです。 公園の山茶花は盛りも過ぎて散り始めてはいますが椿はどうでしょうか。
 新聞で大島の観光や椿祭りの記事を読んだら何十年か前に旅した大島を思い出しました。 あれは高校を卒業してすぐに親友と二人で出かけた小さな旅でした。
 10代の終わりかけの年齢とはいえ大人抜きでの旅は初めてのことで、今とは時代が違うので父親の許しをもらうのにおそるおそるでしたが、父が言うには船の旅は3等船室ではだめでちゃんと二人部屋を取るようにとの条件付きでした。 雑魚寝はいけないと言う事だったのでしょう。
 こうして友達との二人旅は始まり、これ以後は堰を切ったように旅に出るようになりました。 インターネットもない時代ですから全ては時刻表を頼りにスケジュールを立てて旅の楽しさを知ったのでした。あの時刻表を見て組み立てる旅のわくわく感は今でも覚えています。
 全部自分で宿も交通手段も決めるのですからネットでさっと簡単に調べるわけではなかったので苦労して立てた旅のスケジュールは、まだ見ぬ旅先への期待感が果てしなく広がったものです。 今でも時刻表を見るのは好きです。
 話が戻りますが大島への旅はまだ春浅いころでしたのに島は椿が多く咲いていて東京より暖かくて椿のトンネルや植物公園にでかけたり灯台に行ったり、海を眺めての楽しい時間でした。
 何よりも高校を卒業した開放感があり、これから進む道に希望があふれていました。 青春の思い出は椿を見る度に蘇ります。何の変哲もない紅い藪椿と厚い葉の深緑、花が終わると実る固い茶色の実は平凡ですが、私にとっては大人への道しるべとなる最初の木だったように思っています。私らしい木と勝手に思っています。
 我が家の塀の際にも椿が毎年咲きます。まだ蕾も見えていませんが古い木で、もう何回も場所を移し替えては移植して、移植させる度に椿は植え替えるとだめになるんだという植木屋さんの言葉に反して毎回植え替えた年は心配するのですが、花をつけなかった年はなくいつも元気です。ずっと私に寄り添ってくれる木なのだとこの椿には感謝しています。
 椿に寿命はあるのでしょうか、私より年は取っているはずなのです。 大島の広告を見ていたらまたあの椿のトンネルを見に行きたくなりました。 きっとまだあるのだと思います。黒潮、そして椿のトンネル、又トンネルをくぐってみたら若返るような気がしますが少し虫の良い話でしょうか、実現したら3度目の大島行きです。

2013年2月2日土曜日

黒い椿


 とうとう2月に入ってしまいました。今日辺りは少し暖かく梅の頼りもちらほらと聞こえて来ます。 梅も香りが良いですが昨日から水屋の棚に飾った水仙が良く香っています。水仙は独特の気高い感じの匂いです。

 千葉の鋸南市では水仙が多く海沿いに植えられていて今は愛でるのにとても良い頃だと放映されていました。抱えきれないほどの水仙を胸一杯に摘んでみたいなという衝動に駆られました。 花々の香りは春の到来を伝えます。梅、水仙がまず先頭でしょうか。可愛いパンジーやチューリップにも目が行くのですが洋花はもう少し後にしましょう。 まず日本の花、木に咲く花、山茶花、椿、ぼけの花、梅からと楽しんで行きましょうか。 早春の空に大きな柑橘類の木である柚や橙などが成っているのも大好きな景色です。

 近くのマンションの庭には絞り模様の椿があります。近々取り壊されるそうで、あの木はどうなるのだろうと今から心配です。紅白の絞りの椿はひとつづつ皆違う染め分けで見ていても楽しいです。切り倒されてはもったいないと思っています。
  椿はたったの一輪でも絵になり風情が出ますし、どんな花瓶でも良く合う不思議な存在感を持った花です。ワビスケのようにお茶花にも使われますが昨年は白いのではなく暗い濃い赤のクロワビスケの枝を頂きました。
  もう植える場所もありませんが鉢植えでも良いので今年は植木市で探してみようと思います。 これから花を追いかける季節になりましたので楽しみです。 玄関脇に可愛い名前のカンザシソウをいくつも植え込みました。 蕾は紅く咲くと白い花です。もうさすがに凍ることはないでしょう。 梅園の見頃や梅祭りはいつか探しております。


過日、1月28日には板東三津五郎さんの新年会に出掛けました。その折に仕立て下ろしの訪問着を着ました。この着物はかなり大昔のものできっと戦前に染められた着物と思われます。
 訳あって私の手元に長いことありましたが思い切っての陽の目を見せようと自分の着物寸法に仕立て直しておきました。
 それからまた10年ほどが経ってしまったのですが、ふと思い出して今年の新年会に着て見ました。とても不思議な柄で上前から脇ににかけて椿の頭が三つさっとした筆致で描かれていてそれが黒、紫、錆朱とあり得ない様な椿の色なのです。
 モダンというか粋というか現代にはない色合いです。 地色はとても渋い白茶色で私はあまり着た事がない地色です。 帯が難しいなと思いましたが手持ちの黒地塩瀬の雲龍柳を描いた帯を合わせて見ましたら案外合いました。
 黒い椿は丁度上前寄りの脇に描かれています。これは黒ワビスケなのかしらとふと思いました。昔の職人さんの制作意図を聞いて見たかったとあれこれ想像します。
 粋でモダン、お江戸の匂いもする着物です。歌舞伎関係の集いには相応しいかと着てみました。