2011年8月29日月曜日

蜻蛉飛ぶ空に



 八月も最後の週となり厳しかった暑さもやや穏やかにすこしづつ下降線をたどっているようです。激しく鳴いていた蝉たちもまだ鳴いてはいるものの気のせいか少し音が弱く聞こえています。
八月最後の日曜日,山から一応犬たちを連れて引き上げてきました。ほぼ20日ほど涼しい山の中で過ごしていた犬たちですがすっかり元気で夏の林間学校を終えました。
 犬たちに対して家族は山での長い休暇を林間学校と呼びます。9月に入ったらまた秋の林間学校に連れてゆきます。
 今朝は都会の朝を散歩させましたが山でのアップダウンに比べれば平地で私も楽です。ただし車の往来には神経を使うのと、よそ様の家の前でおしっこなどをさせないように注意するのは山ほど気楽ではありません。

 早朝の山道での散歩では、露草が青い花をいっぱい付けて朝露に濡れて茂っていましたが,その露草の原を何度も転げ回って体中朝露に濡れてぐしょぐしょになりながらも喜ぶ犬の様子は本当に見ていて楽しい限りでした。
夜に雨が降ると道の端に地下水があふれ出て小さな小川のようになり、その水を時々ちょろちょろ飲みながらの散歩は犬たちにとっても甘露、甘露と言いたいことでしょう。   

野あざみに留まる蝶を時に追ったり小鳥の鳴き声に私も犬も木の梢を見上げたりして散歩するのは都会で車を除けながらの散歩とは大違いです。

 今度山に行く頃はアキアカネに会えるでしょうか、めっきり蜻蛉の数も減ったのですが気候のせいか、農薬のせいかわかりませんが,20年前には多くの蜻蛉が群れていた姿を見ました。
洗濯物を干す私の頭に留まったり指に留まったりしました。秋の日差しと蜻蛉は絵になります。


 先日私のところで染めた蜻蛉の染め帯の写真がお客様から送られてきました。
お母様の昔の着物に合わせられたそうですが調和も良く、素敵だったのでこのブログ内に掲載させて頂きます。
絽の帯に描かれています。暑い夏にも楽しんで着物をお召し下さることはとても嬉しく、このようなお写真が送られてくることは作り手にとって何よりの励みとなっています。ありがとうございました。
 
 そういう私は改築工事のため箪笥などを動かして、着物に手を通す機会があっても例年のように直に出し入れできません。秋までお預けになっています。工房は横半分が取り壊されている最中で大きな音が連日しています。

 壊れた壁から昔の壁の中が見えて解体の人が「懐かしいねー昔はみんなこの壁だったよ、これは何百年だって持つんだ」と言っていました。土壁の中には竹が格子状に組まれていてその中にも壁土が塗り込められているのが見えました。こんな壁を見るのはこれが最後だと私もしばらく眺めておりました。

 すこし高くなった秋めいた青空に家をこわす音が響いています。平成23年まで長いこと70年以上も頑張ってくれた家ともさよならを告げる夏の終わりです。

2011年8月23日火曜日

森の珈琲屋さん


 昨日、10日余りの休暇を終えて東京に戻るとこちらも雨模様で肌寒い位の涼しさに驚きました。
山でも4日ほども雨に降り込められての帰宅で、これはもう秋口の天気に急になってしまったのかと,残暑を感じるひまもないうちに夏が去っていくのは少し残念と思うのも勝手なものです。
改築中の工房に戻ってみるとお盆中だったと言うこともあり、思ったほど解体が進んでおらず、改装するところとそのまま残す部屋との境はコンパネでがっちりと仕切られて居場所が極端に狭い状態となっていました。これでは当分制作活動は東京では出来ず、山のアトリエで目鼻が付く秋まで制作に従事するように早く気持ちを切り替えて行かねばと決心するのでした。

 8月上旬から工事の邪魔になるからと、犬たちを連れての山暮らしを家族とローテンションを組んで滞在中の犬の世話に当たることにしました。
 犬にとって散歩は欠くべからざる事で犬の喜びはたいへんなのですが、我々にとっても山の散歩は自分たちの健康状態を顧みる大事な行為を含んでいます。

 いつもの散歩コースの途中に道に面してやや古びた珈琲屋さんがあります。下る坂道にあるので、いつも片眼で見ながらも急ぎ足で犬に引っ張られて通り過ぎてしまうのですが,先日は友人と連れだってののんびりした散歩だったので寄ってみる気になり,そのドアを開けてみたのでした。

 店内はお洒落と言うにはほど遠い感じでしたが、カウンター席がいくつかと椅子席のテーブルが並び、隅には低い机の周りに座布団がありくつろげるスペースもありました。
 この店は昔草木染めの工房だった事を思い出したりして模様替えをそれほどしないで引き継いだのでしょうか。
 すでに二人の客が居て挽いた珈琲を買って帰るところでした。我々3人の座った席の前には業務用のような大きな珈琲の焙煎機がどっかりと置かれていて私はこの店にこんな焙煎機があるのに少し驚いて見上げてしまいました。都会でもお店の中に大きな焙煎機が鎮座しているのは余り見たことがないです。
そう言えばお店の看板には自家焙煎の店と書いてありました。こんな山の中で人は滅多に通らないのに商売が成り立つのかと不思議です。

 何よりも印象的だったのは店主の雰囲気でした。私たち3人だけのお客でしたが焙煎機の前でおしゃべりをしていましたが、空いている割には待たされてしばらくしてからお水を持って来たので、珈琲を注文すると誠に丁寧に頭を下げてゆっくりと注文の珈琲を反復した上、「しばらくお待ち下さい」と丁寧に答えるのでした。
 ちょっと年齢が分かりにくい中年の主人でしたが,注文を聞いてから珈琲を挽くのか、焙煎をしているのか分かりませんがずいぶんと待たされた気がしました。
 しばらく経ってから「大変お待たせしました」と一人ずつに珈琲の名を言いながら丁重にカップを置くのでした。 
 気持ちぬるめの珈琲でしたがこれが本当なのかなと思わせるほどの丁寧な応対だったので、いつも街角でフーフー言いながら急いで飲む珈琲とはまた違うなと思いつつ、店主のスローな煎れ方のせいなのか、山だからカップがすぐに冷える事に気を付けている私の注意点と同じなのかと考えつつも煎れるのに時間がかかった分、ゆっくりと飲み干すことにしました。

 一寸気軽に立ち寄っただけなのに,結構時間がかかり、まだ明るかった外の景色も店を出る頃にはかなり夕闇が迫っていていかにものんびりした休憩でした。
 「都会では考えられないわね。やってゆけないわね。」とつぶやいた私は何故か宮沢賢治の小説を思い出していました。あの店主の雰囲気がそう思わせたのかもしれません。丁寧でゆっくりした応対とたった一杯の珈琲に取られた時を忘れたような時間の経過を暮れゆく山の景色の中に感じていました。思えば思うほど宮沢賢治のお話に登場しても良いキャラクターだなと勝手に想像してしまいました。あの店主の物腰は独特でした。

 デッキにも椅子席があったので今度は犬たちと散歩の途中に寄ってみようかと森の中の珈琲屋さんを振り返りますと、看板のところに「あんドーナツ出来ました」と書かれた張り紙もあるのを見て、ますますこれは宮沢賢治の世界に近いと少し暖かい気持ちになったのでした。
 山の中、森を背にした珈琲屋さんはとっぷりと夕闇の中に静かにあったのでした。この日の散歩は案外私の夏休みの収穫だったのかも知れません。

2011年8月20日土曜日

秋雨前線


 お盆休暇たけなわな時期も過ぎてやや私の滞在している山のアトリエの辺りも人影が減り静けさが戻ってきたようです。
暑さも一段落すると急に雨が降り続き気温も急激に下がり、天気予報では秋雨前線がやって来たと伝えていますが、この涼しさも一時的なものとは思われます。まだまだ残暑はぶり返すそうですが、気温が16度となればこのまま秋が始まるのかと思ってしまいます。冷たい秋の雨に尾花が生い茂る原っぱでは雨露が尾花の先や葉にきらきらとついてしずくを霧雨に振るわせています。

まだまだ穂を付け始めた尾花は赤みを帯びていて穂もひらいてはいませんが、丈だけは高く一面に山荘の前に広がりその根元では野アザミが咲き始めています。
 雨続きで周りの山々はほとんど見えません。テレビから聞こえる甲子園からの応援の喧噪が静かになり高校野球も終わりかけると、夏もそろそろ終盤だなと毎年思います。すると不思議に空までも秋めいて見えるのです。

 あんなに夢中になって食べていたスイカも、この2、3日は涼しすぎて欲しなくなるのもおかしなものです。今日は頂いた讃岐うどんを暖かくしてお昼にしました。
 本当はお素麺を食べたいと思いながらも気温の涼しさにうどんが勝ちました。きっとまだスイカや素麺の出番はあるでしょう。そうは簡単に秋が来る訳はないはずです。
 今日は秋の味覚のピオーネを発注する伝票を書きながら外出もせずに静かに窓から落葉松に煙る雨を見ながら過ごしました。

 少し肌寒いので夜は村の温泉にでも入って温まりたい気分になっています。

2011年8月8日月曜日

再生に向けて


 明け方からミンミンぜみが激しく啼く今日より、いよいよ工房のリニューアルに向けて、改装工事が始まりました。厳しい真夏の太陽のもと改装部分が取り壊しとなり、がんがんと壊す音が鳴り響きます。
 昭和を頑張って生き抜いて来た家屋が、壊す音に悲鳴を上げているようです。家具をどけて壁などが露わになったところを見回すと、さすがにもう建て替える時期に来ているのだと思わずにいられません。中でも古びた欄間やふすまの取っ手、小さな障子窓の珊などが、古びた色合いになっていて捨てがたいものです。リニューアルに生かせるかもしれないという話なので、建築家の仕事が楽しみでもあります。
 私は丸い窓が好きなのでまた再び小さな和室にデザインしてもらうことにしました。

 これからの時期に落ち着ける居場所もなく、当分は山のアトリエ暮らしとなります。秋風が立つ頃には全てが終わることでしょう。荷物の移動は本当に大変でしたが、ここ一番踏ん張るしかないと毎日片付け作業に追われる日々でした。

 犬たちも工事の邪魔になるので犬を連れての疎開です。大きな物音に犬たちもはしゃいで興奮気味です。工事終了まで大きな台風に見舞われないように再び大きな地震に遭わないようにお参りにでも行ってこようかと思います。

創立記念祭について大事なお知らせ


こんにちは。制作アシスタントの渡辺です。

あらた工房の「創立記念祭」を、9月下旬より開催する予定でしたが、
今年は取り止めということにさせていただきました。

楽しみにしていて下さったみなさまには
心からお詫び申し上げます。
本当に申し訳ございません。

現在あらた工房では改装工事を行っており、
当初の予定より工事日程が延びますので、
残念ながら、今年に限り創立記念祭は中止せざるをえません。
あらた工房にお越し下さる方に、充分な環境を提供することが
できないという判断を勝手ながらさせていただきました。

今回の創立記念祭は中止になりますが、
次回の「秋冬のあらた会」はリニューアルしたあらた工房で開催いたします。

日程については後日こちらのブログと最新スケジュールにてお知らせいたします。

みなさまに楽しんでいただける素敵な会になるように計画しておりますので、
どうぞご期待ください。

では、まだまだ暑い日が続きますがお体にお気をつけてお過ごしください。

わたなべ