2012年10月24日水曜日

ホトトギス咲く頃


 玄関の掃除をしていたら玄関脇の木戸の側にホトトギスの花がいくつか咲き始めているのを見ました。


ホトトギスもまた今年は遅れての開花で、全てが10日ほど秋の花が咲く時期がずれていると思いました。
  ホトトギスはお茶花に相応しく、地味ながらも複雑な形と色合いをしています。花弁の模様が鳥のホトトギスに似ているからとそのように呼ばれていると聞きました。
  工房のホトトギスは、ごくありふれた色合いですが昔、長野の駒ヶ根の山間には黄色のホトトギスが群生していたのを覚えています。花弁には複雑な模様はなくさっぱりとただ、黄色かったのが印象的でした。最近はめっきり少なくなったそうです。
 ホトトギスの花は風情があり、渋くていかにも日本的でこの花は絵になりそうですから、いつかいつかと思っていますが今の所は帯の柄にもなっていないので、初秋から秋にかけて暑苦しくもなくて、さりげない花ですから秋口の題材としては打ってつけでしょう。
 地風は何がいいだろう、やはりあまりざっくりとしないしなやかな紬がいいかしらと繊細な花弁を見ながら考えてしまいます。こんな風にひっそりと忘れた頃に咲く野草は周りの空気感を伴っていますからその感じを表す事も大切で、自然の中の存在感を引き出すのが最も難しい事だと思っています。
  ホトトギスの羽に似ているらしいのですが鳥のホトトギスは鳴き声を聞くばかりでそんなに近くで姿を見たことはありません、草木と鳥たちは切っても切れない縁でつながっているのですからどちらも良く観察が必要です。
  山の秋も深まる中で今年は残り一ヶ月あまりしか山のアトリエに通えません。冬が足早に来る前に行く秋を見届けなくてはなりません。
 11月には小雪も散らつく日もあるので山に行く日は秋晴れでありますようにと勝手なお願いを唱えております。

2012年10月17日水曜日

10月の女神


 今年の10月は例年より2週間も遅れて金木犀が忘れたころに咲きました。ある日どこからともなく金木犀の香りが玄関を開けて表に出ようとした時に香って来て「あっ、咲き始めたのね」と突然に感じるのです。

何時も想うのはその瞬間に「10月の女神の到来だ」と思わせます。下ばかり向いていると金木犀の小さな花は目に入らないので、香って来てから思わず頭上を見上げて咲いていることを確認するのが常です。
 地味で小さな花ですが蜜柑色した花は茂る葉の間から沢山見えています。

 私流に考えれば10月の女神がやって来るとき金色の杖のような物の先を振りながら金木犀の香りを放ち、秋の風に乗って来る姿をイメージしてしまうのです。それはまるで名画の一コマのようであり美しい秋の女神を勝手に想像してしまうのは少し乙女チックな感じですが子供の時からずっと思っているイメージなので、今さらそのイメージを消し去る事は出来ません。

 毎年金木犀の香りがすると、慌てて夏の衣服や着物を片付け始めます。私に取っては季節の変わり目を知らせ、秋から初秋にかけての扉が開かれたことを実感するという花であります。
 裏の家の銀モクセイは北向きなので今年も一足遅れて咲くことでしょう。穏やかな秋の陽差しが満ちて10月を最も幸せに想う日々です。

2012年10月2日火曜日

60年の眠りから覚めて



 10月になり、台風が次々とやってきますが、過ぎ去る毎に秋が色濃くなるのを感じます。この夏より工房の催事のご案内の封筒を全く新しくデザインしてリニューアルすることになりました。すでに案内状をご希望のお客様には秋の展示会のご案内として新封筒が届いている方もいると思います。デザインは某大手化粧品会社で広告のアートディレクションを長く手がけてられるデザイナーさんにお願いしました。



 ずいぶんと久しぶりに封筒も模様替えしまして、今年の工房のリニューアルに因みインビテーション用の封筒も生まれ変わったのです。
 デザインを決めるに当たり改装中に古い昔の資料が沢山出て来て、長いこと見なかった、かつての図案や原案も多く見る機会があり父の手による彩色された図案を再び目にすることになりました。

 戦後すぐに染色の仕事に復帰した頃の父の描いた図案は若々しい力に溢れている物ばかりで伸びやかな筆致は当時30代だった父の勢いを感じさせる図案ばかりです。
 封筒のリニューアルに協力をお願いしたデザイナーさんの提案もあり先代の描いた図柄をどこかにあしらってみたら意義があるのではとの考えに、私も同意して数ある昔の図案から選んでみました。
 丁度、夏の事で黒々と力強く墨で描かれた撫子の柄を見つけ、勇気をもらったような図柄に心惹かれてこの絵の一部を封筒の片隅に金箔のレリーフとしてあしらうことしました。
  
 そんなわけでこれから当分の間、お客様へのご案内はこの新封筒が出番となります。おそらく昭和20年代後半に描かれた原案と思われますので、はや半世紀も前の柄を甦らせたことに父の力をもらい、背中を押してくれる気がして私も初心に戻り、まだまだ頑張らねばとの思いを強くする平成24年の秋となりました。

 台風が次々と来る度に被害が必ずあるのは切ないことですが、実りの秋を迎えて大分体も楽になり、着物を着るチャンスもこれから多くなりますので、新しい柄の創作に励んで行こうと思い10月に突入したという思いに満たされています。