2012年2月29日水曜日

雪の誕生日


 2月最後の29日、私はまたひとつ歳を重ねました。唯一私が自慢できる閏年29日の誕生日は4年に一度なので、なかなか歳を取らないと言う事です。まだ十代と思えば高校生みたいでなんだか元気になります。4年に1回味わえる貴重な気分です。
朝から天気予報の通りに雪に見舞われて真っ白な世界が2階の工房から眺められて清心な気分になり、折しも明日からの工房再開を思い身が引き締まる気がします。
今まで以上に体に気を付けなくてはと心に念じました。

 半年間も昼間は繋がれっぱなしだった2匹の犬もあと1週間の辛抱で新犬舎に解き放たれる日がきます。人間にとっても半年は長いのに犬の年齢から行けばきっともっと時間が長く経過したのではないかとずいぶんと心配もしましたが、私に取っても犬にとっても長く厳しい冬があと少しで明けそうでほっとしています。
仕事にこんなに長く従事出来ず制作も出来なかったことは始めてで、それはそれで貴重な体験をいっぱいしました。特に人と人とのつながりや縁というものに感じることが多かった気がしています。
 これからは、ずっとこのまま多分、力が尽きるまで淡々と仕事を続けて行くことでしょう。
世の中の流れも価値観も大きく変わりましたが私は私の信念を貫いて行くしかありません。
 雪化粧された東京の景色はあらたにリセットされた私の人生を示唆しているように感じます。

 日曜日に行われた東京マラソンでは藤原新さんが2位でゴールして私は一生懸命に応援しました。新さんは、あらたさんと読むのに とても親近感を覚えました。と言うのも亡き父は新一という名で、私は自分の工房の名前を父の新という一字から取り、ひらがなであらたと決めた経緯があるのでなんだかひとごととは思えなかったからです。
 私はいつも「日々これあらたなり」を心がけてモットーにし創作の根源に考えているので今回の東京マラソンでの藤原新さんの活躍には心から嬉しく思えました。
 報道によれば彼はどこにも所属せず一人でマラソン一筋にがんばっているとか、共感を覚えました。ちょっと自分に引きつけ過ぎて勝手に色々と思いましたが、今の私にはどんな些細なことでも自分の力にしたく今まで以上に好奇心も感受性もこの半年間の休養で更に増してきたようです。

 明日からは弥生三月、この言葉だけからでも春の息吹を期待しわくわくして来ます。明日は気温も高くなるそうで正真正銘雪解けの春が訪れ、長かった冬が終わりを告げることになるのでしょう。明日の太陽の陽差しが楽しみです。
今は森羅万象、大げさですが、全てに期待したい気分になっています。

2012年2月19日日曜日

工房リニューアルに向けて



 2月も残り1週間となりました。閏年なので例年よりほんの少しだけお得な気がする2月ではありますし、29日がバースデーという私にとりましても4年に1度の日を迎える今年ですから何か特別な年にも思えます。
 そして間もなく、春に向けての工房のリニューアルオープンも迫っていて、引っ越し作業やら古い物の片付けに追われる日々が続いています。
昭和38年から父亡きあとに引き継いだ様々な道具も含め、その後の資料は多くてこの有様を他人が見たならなんて古くて汚い物がいっぱいあるのかと、こんな物をまだ取り置く必要があるかと思うかも知れませんが、私に取ってはそれぞれが大事なものばかりです。
 それでも思い切って捨てたものも多く、この際だからと目をつぶり処分した物もありましたが、あれほど捨てたのにまだこんなに多くの捨てられない資料があるのかと、積み上げられた箱を眺める日々でもあります。

 これから先どのくらい創作活動ができるかわかりませんが、私はこの度のリニューアルに向けて環境も変え、心機一転と身を引き締める思いがさざ波のようにひたひたと、体を満たして水が染みいるように日ごとにわずかづつ創作への思いが深まる気がいたしております。

 昨年の震災は私には直接的な被害は及ぼさなかったのですが、少なからず考えさせられる事の多い出来事でした。自分の生き方やそれぞれの人の価値観や、普遍的なもの、守らなくてはいけないこと、次世代に伝えなくてはならないことなど、それはそれは多く考えさせられたのです。
 まず住まいの環境を堅固にし、自分の健康を真剣に思い、これらの上にしっかりした考えを持って立ち向かわなければ良い仕事も出来ないのだということを毎日のように思った半年でありました。
 古い本や写真を整理しつつも原点に戻り、全てを見直ししなくてはならない良い機会だったと思わねばなりません。
これから春がやって来るように、出来る事ならこの私の体にも春に向かい木の芽が吹くほどの熱い血潮を漲らせたいと願うばかりです。
4年に1度しか歳を取らないのですから、せめて精神年齢だけでも若くありたいと考えています。

 そして今年の秋は、この仕事を遺して早世した父の50回忌にも当たるので私の節目にもなります。それまでに新生あらた工房が、順調に滑り出している日々であるように頑張らなくてはなりません。
 今年の寒さで桜も2週間ほど遅れていると聞いています。何だか私の歩調に合わせてくれているようです。すっかり茂って手入れを怠っていた椎の老木たちはうっそうとして隣の桜の木への日当たりを妨げてしまっていますので、そろそろ植木屋さんに声をかけなくてはならないと考えています。あっという間に終わりそうな2月です。

 リニューアルされたキッチンでIHで初めての調理の日々でもあります。私には革命的な台所です。慣れた作業だった調理の手順も、すっかり様子が変わりました。いくつになっても覚えなくてはならないことがあります。新し物好きな私ですから早くIHに慣れてこれから好きな牡蠣フライに挑戦しようと張り切っています。とびきり美味しい新鮮で大きい牡蠣をどこに頼もうかなと思っている自分に少々うれしさすら覚えています。食欲は創作欲と通じる物があります。


2012年2月8日水曜日

2月の雨は春の予感


 この2,3日空が少しぐずつき気味で雨が時々降っています。
雪にはならず、ほっとしているが季節は節分を過ぎて春に確実に向かっている気がします。
雨もさほど冷たくないので、一雨毎に春めいて来るのでしょうか。今まで余りにも乾燥がひどかったのでこれで大地も木や草も湿り気を含んで着々と春の準備をするのでしょう。
まだ黒い桜の幹は春の雨を吸い上げながらきっと開花に向けていると思うと嬉しくなります。
今年のお花見はどうしようかなと最近は考えるようになりました。

 今回の改装でキッチンの屋根を四角く開けて天窓を作ったら隣の桜の細い枝が見えていました。
桜が咲いて、散ったら天井を見上げてお花見がキッチンにいながらにして出来るかしらとワクワクしてきました。同様にピアノ室の天窓も枝が見えているのでこれは楽しいなと10日の竣工を控えて心が久しぶりに晴れやかになりました。
今日を皮切りに今年も私の桜観察日記が始まりそうです。

 昨夜は久しぶりのコンサートでした。耳に馴染んだ歌や始めて聴く歌などもあって、しばしの間は雑多な日常を忘れさせてくれました。
どの歌も素敵でしたが少々疲れ気味の私にはオペレッタの曲がすんなりと体に入ってきました。
 レハールの作った「メリーウィドウ」のおなじみの曲、「微笑みの国から」のアリア、君こそ我が心の全てなど甘くて心をときめかせる好きな歌が思いがけずに聴けてうれしく思ったのです。どうしてウイーンの歌はこんなに綺麗な旋律なのでしょう。
ちっとも難しくなく、聴けばなぜか懐かしささえ覚えて来ていつも不思議だと思うのです。
この懐かしさは何なのでしょう。解明できないのですが心地よい旋律の法則があるのでしょうか。感じるのは私だけではないのかもしれません。
もっと不思議なのは必ずウィーン歌曲を聴くと両親を想い出すのです。というより子供時代の自分が見えて来る事です。
 強いて理由があるとするなら私が物心ついて始めて買ってもらったレコードがウィンナーワルツばかりが満載のレコードだったからかもと思います。
どれほどそのレコードを聴いたかわかりません。きっとすり切れるほど聴いたにちがいありません。今はそのレコードのジャケットが残されていて山荘のアトリエに額縁に入って飾られています。私の少女時代の宝物で半世紀以上も経っているのに今でも大事にしています。

そんなウィーンのワルツにどっぷりと浸かった子供時代があったからかも知れません。

雨上がりの夜でしたがそれほど寒くなくて、甘い音楽を聴いた後はもうすぐ訪れる春の予感を感じたのでした。