2012年8月29日水曜日

一人芝居


 まだまだ残暑が続くそうですが、この夏最後の週に新宿の紀伊國屋サザンシアターで公演中の「芭蕉通夜舟」を観に行きました。板東三津五郎さんの珍しい一人芝居です。
 何時もの華やかな歌舞伎の舞台とは違い、地味ではありますが井上ひさしさん作で小松座の公演です。膨大な台詞で全く一人で演じる舞台に引き込まれました。
 あれだけの台詞をどうやって覚えるのだろうかと凡人の私は感心するばかりでした。かつて新国劇出身の島田正吾さんが90歳を過ぎても毎年一人芝居を演舞場で演じるのを欠かさず観に行っていた時期がありました。
 一人芝居は代わりがいない中での公演ですからどれほどのエネルギーと集中力が必要なのでしょうか。計り知れない物があると思います。島田正吾さんは100歳までも続けたいと舞台上の挨拶でおっしゃっていたのに観客は大いに元気づけられましたが、その島田正吾さんもお亡くなりになってもうかなり経ちますが、あの舞台は毎年印象的で並みいるスターたちが何時も前の席に並んでいてあの新国劇出身の緒形拳さんはいつも舞台が終わると楽屋に飛んで行くようでした。
 その緒形拳さんも亡くなってしまいましてから、私も久しく一人芝居は観ていなかったので今回の三津五郎さんの舞台は新鮮に感じました。一人芝居の緊迫したような役者の魂を垣間見て当時をを思い起こさせたのでした。
 でも考えて見ますと私たちの人生も一人芝居のような物で演じるのは自分しかいないのですから同じなのかも知れません。観客は自分を取り巻く人々や世間というものでしょうか。
 7月の三津五郎さんの50周年の会が行われた折に挨拶の中で、この一人芝居の公演の説明をしておられて「出演は自分一人なので切符を売るのも一人です。皆様是非いらして下さい。」 と話していたのが、あれほどの役者さんでも率直で飾り気のない様子で好感を覚えたものです。私が観に出掛けた日はウイークデーでしたが当日券完売との張り紙があり良かったなと思いました。
  一人芝居はひとりで演じること、誰でも皆人生の一人芝居を演じているのだと改めて思った日でした。

翌28日に展示会の準備で忙しくしている私に綺麗な秋の花籠が届きました。うだる暑さの中では一服の清涼剤のようでとても心が癒されました。お粗末で何時ももがいているような私の一人芝居にも応援して下さる方があるのは本当に有り難いことです。
 8月もラストの週です。暑いとは行っても日の落ちるのは急速に早くなり夜には涼しい風が吹くようにもなりました。初秋に向かって盛夏の着物の始末もしなくてはと考える日々です。